2018年度受賞作品,  ARTIST,  AWARD,  常盤 なを

【特別賞】水源のある生活

私の家のリビングは、毎朝決まった時間になると、香ばしいコーヒーの香りが漂う。父と母の二杯分、母は慣れた手付きでコーヒーを淹れる。私には分からないが、淹れ方にはこだわりがあるらしい。それは豆だけでなく、水にも。コーヒーに使っているのは水道水ではなく、とある場所で汲んできた水である。

私の家庭では、月に一回か二回、少し遠出をして水を汲みに行く。この水はコーヒーだけでなく、色々な料理にも使われるから、大きなペットボトルを箱いっぱいに詰めて持っていく。私は幼い頃からこれを手伝っているけれど、なぜこんなに時間をかけて面倒なことをするのか、ずっと疑問に思っていた。実際に聞いてみると、父が言うには、「水道の水と汲み水では全く味が違うし、汲み水でもどこの水かによって風味が違う」らしい。私も飲み比べたことがあるが、汲み水の方がキンキンに冷えているということくらいで、正直味の違いはそれほど分からなかった。まだ舌が子供だということだろうか。

ちなみに最近は佐賀に水を汲みに行くことが多い。そこは近くにダムがあり、汲むのではなく、蛇口から水が出てくるというシステム。蛇口は四つしかないのに、多くの人が訪れるからかなり混雑する。でも以前は佐賀ではなく、熊本に行くことがほとんどだった。熊本には水源が多くあり、一日に何か所かまわることもあったが、ある時を境にほとんど行かなくなってしまった。

それは平成二十八年に発生した熊本地震。しばらくの間、水源へ行くのに通らなければならない道が、ふさがれたままだった。さらに、地盤が変化したことにより、水が湧かなくなった水源もあると聞いた。ニュースでも、有名な水源を中心に訪れる人が減り、観光に影響が出ていると言っていて不安になった。

私は熊本の水源が好きだった。特に味の違いが分かるわけではないけれど、熊本の水源はとても水が澄んでいて、美しい景色が広がっていた。もちろん佐賀でも、ダムの上から大自然を眺めることができる。しかし、熊本の水源で優雅に泳ぐコイに餌をあげたときのワクワクも忘れることができない。熊本も今は前と変わらないくらい、いやそれ以上の元気があると私は思う。水源だって全滅したわけではない。今度、久しぶりに「熊本に行こう」と家族を誘ってみようか。私も少しオトナになったから、水の違いが分かるかもしれない…。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です