2017年度受賞作品,  ARTIST,  AWARD,  菊地 市千

【特別賞】水分補給!

「水分補給!」

これが、母の口ぐせだ。

私が小学五年生の夏、暑い日が続いた日のことだ。祖父が熱中症になって救急車で運ばれた。

祖父は、外で体を動かす、体力を必要とする仕事をしている。そのため、祖母は夏になると祖父に水

筒を二本持たせている。一本は水か麦茶、もう一本はスポーツドリンクだ。そんな祖父が、不調を訴え

たその日は、とても暑い日だった。外仕事で、大量の汗をかいた祖父の水筒の中身は、すでに空になっ

ていた。

いつもならば、コンビニで飲み物を買えばいい。しかし、その日は、「運」もなかった。お財布を忘

れ、水分を取れないまま仕事を続けたのだ。

祖父は、水分を取らなかった事をあまり深く考えていなかった。それよりも仕事を進める方を優先し

ていたのだ。

その日の夕食、いつも楽しみにしているお酒を飲まずにスポーツドリンクを飲んでいた。食欲もなく、

だるそうにしていた祖父に祖母と母は、心配して体を冷やしたり、騒がしかった。

しばらくして、祖父にけいれんが起きた。そして、救急車を呼んだ。祖父は病院に運ばれ「熱中症」

と診断された。祖父は、点滴を受けて帰って来た。

次の日の夕方、ニュース番組で

「昨日までに救急車で搬送され、熱中症と診断された人名です…」

という声に母と祖母は、

「この中にお父さんも入っているね」

と祖父と笑って話をしていた。昨日はあんなに心配していたのに、今日はこんなにふざけて笑ってい

る。私は、初めての救急車にたくさんの心配をしたけど、本当に良かった。 その翌年から、さらに母の口ぐせが増えた。

「水分補給ね!」

祖父にはもちろん、その言葉は私にも向けられた。

学校から帰り、水筒の中身があまり減っていないと、

「だめだよ!水分取らなきゃ!」

「飲む時間がなかったから……」

「休み時間に一口でも飲まなきゃ!」

そのような、やり取りが続くのだ。遊びに行く時にも水筒は、私にとって必需品。

母は言う。

「体には水が必要だ」 と。

私の体は、約七十パーセントの水分でつくられているという。汗をかく、トイレへ行く、体を動かす

といった事で、体にあった水分が外へと出ていく。そしてまた、必要とする分を体内へと取り入れなけ

ればならない。

体に必要な水分が入らないと私の体はどうなってしまうのだろう。

脱水症状や熱中症、便秘や頭痛、血液がドロドロになって病気にかかる。

私から見た水は、水イコール水道で、身近な存在ではあるけれど、なくなる事はない。あって当たり

前のもの、とばく然と考えていた。しかし、祖父の熱中症の件や母の言葉から少しずつ、考えは変わっ

てきたと思う。

私の体の中で、生きるために繰り返されている水の役割と関係を考え続ける。水がなければ生きては

いけない。当たり前の事だが、水の存在が、私の中で大きなものとなった。

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