ARTIST,  原田 維夫

【ざぶん大賞】海とおじいちゃんと僕

本当の話か、嘘の話か分からなくなるよ、おじいちゃん。

海がめに乗ったとか、人魚にプロポーズされたとか、泡が出ても慌てない。とか…おもし

ろくないからね、おじいちゃん。

小型船がひしめき合う港から、隣に居る船をゆっくり離し、水平線に向け船を出し、舵を

とるおじいちゃん。

僕は船の先端に座るのが好きだ。海水がみるみる透明度を増すからだ。

しだいに、タンカーや大型船が行き交う。おじいちゃんの船は大型船に負けて大きく揺れ

る。救命胴衣を着ているが、先端の僕はドキドキして手すりを掴む。 振り返ると、おじいちゃんが舵をとりながらニヤリと笑う。 その途端、おじいちゃんは舵を左右に振り船を大きく傾かせる。 驚いて、手すりに掴まる僕を見て、おじいちゃんは、また笑う。 いつものことだ。楽しすぎる。

島へ着くと、おじいちゃんが錨を降ろす前に救命胴衣を脱ぎ捨て、船からダイブ。

じりじりと熱かった体が、待っていましたとばかりに冷やされていく。

透明な海水が染み込む。

海面に顔を出すと、早々と錨を固定したおじいちゃんが僕を見つけてニヤリとした。

さっきと同じだ。ヤバイ。早い。 僕が焦って潜った途端、海中が揺れた。

泡の塊が飛び込んできたと思ったら、それはすぐに消え去り、散り、おじいちゃんが僕よ

りずっと深い海中にいた。

また、僕を見て、見上げてニヤリとして、海底へ潜っていった。息苦しい僕は呼吸しに海

面に出た。

太陽が痛いのですぐ海面に顔をつけ、おじいちゃんを探した。

あんな深い海底にいる。ひとかきで岩から岩へ、全身が揺れて、何個もヒレが付いている

様だ。魚だ。

何より、全く、上がってこない。エラ呼吸なのか?

おじいちゃんの背中に太陽光が差し込んで魚の鱗みたいに輝いている。

あんなに潜っていたら、人魚に出会い、海がめと目が合い意気投合するかもしれない。
本当か嘘か分からないおじいちゃんの話は本当かもしれない。 泡が出ても慌てないのだ。

爆睡だった帰りの船、着くと港で、おじいちゃんは両脇の船を優しく離して、停泊所に入

れた。船に感謝し、掃除をした。

ヒリヒリする背中をかばいながら、おじいちゃんの首を覗いたけれど、エラの切れ目は見

つけられなかった。

「家まで競争」と言うおじいちゃんに付いて行くのが必死だった。 またニヤリとしていた。

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