【ざぶん文化賞】砂浜の約束
俺は深沢武。無職。五歳のとき母親を亡くし、今は親父とくらしてる。今すぐにでもくさい
ジジィとの共同生活から逃げたいし、漁師になるしかないのかな…。二十だし。
俺は深沢剛太。漁師。今はスネかじりのバカ息子と豚小屋のような家に住んでいる。今すぐ
にでも武には漁師になってほしいが、やる気はなさそうだ。死ぬ前に何とか…
一、終わりの始まり
俺と明美が出会ったのは中学生の頃だった。転校生として俺の目の前に現われたのだ。俺の隣
の席に座り、「よろしく」この笑顔に一目ぼれしてしまったのだ。二年に及ぶ猛アタックの末、付
き合うことに成功した俺は、永遠の愛を誓った。成人になり俺と明美は結婚した。武が生まれた
のはそれから二年後のことだった。漁師の俺はほとんど明美や武に会えない状況だった。でもほ
んの少しの会える時間を大切にし、休日をもらい三人で遊園地に行ったりと、幸せの絶頂だった。
しかし明美のがんが見つかったのもその頃だった。医者には「末期ですからそう長くは…」と
言われた。俺の中には絶望と後悔がわいてきた。「もっと近くに居てやれば…」そう思うと涙し
かでてこなかった。明美は「大丈夫だから心配しないで」と病室のベッドでもいつもの笑顔だっ
た。だがその日は待ってくれなかった。最後に明美は俺の耳元で話した。
「あなた二つお願い事があるの。一つは、あなた漁師なんだから、これからも命の海を守ってね。
もう一つは…。武を頼んだから…ね」そう言うと明美はいつもの笑顔で、眠った。
二、砂浜の約束
俺は中学生になった。これが反こう期というものなのか、俺は毎日のように親父とけんかして
いた。たとえば俺は水を出しっぱなしにしてしまうクセがあった。それに気づくと親父は「水を
大切にせんか!」と同じことをいつも言ってくる。そこで俺は「別にいいだろう!」と言う。こ
のくりかえしだ。あと俺がいらつくのはそれだけではない。親父は心配させないでおこうと病気
を隠しているのだ。大量の薬を飲むところを俺は見たのに…。
そんなある日、俺は親父が嫌になり家出した。家の近くの砂浜にいると、親父は心配したのか
さがしに来やがった。俺は来るなと言ったが、親父はそれをさえぎるように抱きしめ、こう言っ
た。「武。約束しろ。この海を大切にしろ。あとな…あいつを悲しませるような人間にはなるな
…」俺は意味も分からず聞くことしかできなかった。
俺は成人になり一年が経った。それはいきなりの事だった。親父が死んだ。がんだったらしい。
最後の言葉もなく。その後、俺は漁師になった。海に潜るとそこには命が広がっている。何だか
それを見てると、あの時の約束の意味が少しわかった気がした。


