2012年度受賞作品,  ARTIST,  AWARD,  コジマ ナオコ

【ざぶん文化賞】海の願い

ザザーンザザザザザザッパーン……ひなたは中学一年生。海が大好きな女の子。家

の近くの海に行き、暗くなるまで遊ぶのがひなたの日課だった。

 

 そんなある日、ひなたは海の声を聞いた。 ザザザ(おいで…)ザザーン……

「えっ?」

 

声に導かれるままもっと先へ足を進めたひなたは、波に足をすくわれ、沖へ流された。

「ここって…海の中?」

 

目覚めたのは、白いサンゴの森が広がる海だった。その中に、こちらをじっと見つめる白

い生き物がいた。ジュゴンである。

「私をここへ呼んだのは、あなた?」

「ええ、そうです。あなたに、知ってもらいたいことがあったのです」

 

ジュゴンは静かな瞳でこちらを見つめながら、そう告げた。

「あなたは、このサンゴを見て、どう思いましたか?」

「えっと、白くてキレイだなって…。だけど、魚が少なくて、トゲトゲした物がたくさんあ

る…」

「そうですか。では、耳をすましてみて下さい。きっと真実が見えてきます…」

ジュゴンに言われるままに耳をすますと、サンゴの声が聞こえてきた。

「あぁ、もうやめて…シクシク…私の体を食べないで…痛いよ…私の体から色がぬけていく

…誰か助けて…」

 

サンゴの悲痛な叫びに、ひなたは耳をおおった。もうこれ以上、聞いていられなかったの

だ。

「解って頂けましたか?では、次の所をお見せします。ついてきて下さい…」

 

 ジュゴンはそう言うと、泳ぎ出した。ひなはその後を追った。 たどりついたのは、草がたくさん生えている場所だった。

「これはアマモ。私達の食料です」

 

ひなたはアマモを見つめた。青々として、とてもキレイだ。

「ですが、これはもう食べられません」 「えぇっ?何で?キレイに見えるのに」 「これは、土の雨をかぶってしまったのです」

 

よく見ると、アマモは、うっすらと土をかぶっていた。

「この前から、ここ一帯に、土の雨が降るようになりました。私の仲間は住み家をおわれ、

皆どこかへ行ってしまいました」

 

ジュゴンは、悲しみをたたえた目で言った。

「さらには、不思議な泡も流れてくるようになり、多くの魚が死にました。私達の母なる海

は、少しの汚れならきれいにする力を持っています。しかし、今、汚れはその力を越えてし

まったのです」

 

ジュゴンは顔を上げると、ひなたに言った。

「そこで、あなた達人間にお願いがあるのです」 「お願い?」

 

ひなたは聞き返した。

「あなた達のしている事を、今すぐ止めろとは言いません。ですが、常に私達のような、他

の生き物の事を忘れないでほしいのです。このままでは、私達は死んでしまい、海は、輝きを

失うでしょう」

 

ひなたは、周囲を見渡し、まだ魚の姿があることに、ホッとした。

「私達の、心からのお願いです」

 

ひなたは涙を流していた。涙はすぐに、海にとけて消えていった。

「あれ?」

 

いつの間にか、ひなたは砂浜にいた。今の事が嘘だとは思えず、ひなたはしばらく、砂浜

に立ちつくした。

一年後。

ひなたは、あの砂浜のゴミ拾いをしていた。

あの日から、ひなたは勉強して、アマモに降り注ぐ土が「赤土」だと知った。泡は洗剤だ

ということも。そして、その全ては人間が原因であることも。また、サンゴを食い荒すトゲ

トゲがオニヒトデだということも。 「よし、キレイになった」

 

ひなたは、少しでも海をキレイにするため、身近な砂浜から始めることにしたのだ。

「あのジュゴン、元気かな」

 

海を見つめるひなたの耳に、

「ありがとう」というジュゴンの声が聞こえた気がした。

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