【ざぶん文化賞】故郷の水を伝えつなぎたい
「ぷはーっ。生き返ったぁ」
小学校の頃の運動会の練習。休憩時間になると、たくさんの児童が運動場にある水道の蛇口に群がる。上向きにした蛇口から溢れる水をがぶがぶと飲んでいく。
ここは宮崎県小林市。約四万五千人が暮らす、私が十五年間育った故郷だ。この小林市は「日本名水百選」にも選ばれた、きれいで豊富な湧水をもつ。水道水にも地下水が使用されているのでそのまま飲んでも大丈夫なのだ。消毒臭のない、市販のペットボトルで売られているような、いや、もっとコクがあっておいしい水を蛇口から直接飲むことができる、水に恵まれた故郷だ。
少し郊外に行ってみると、川底まで透き通って見えるほどのきれいな水を目にすることができる。触ってみると夏の暑さを忘れさせるほどの冷たさが手に伝わってくる。きれいで豊富な水は「生物」にも命を与えている。実は私の故郷・小林市はホタルの生息地としても有名だ。夏になると「ホタル恋祭り」が開催される。周りが真っ暗になった頃にホタルを見に行く。小さな、少しだけ周りを照らすはかない光。川の辺りにたくさん集まると、空の星がそのまま降ってきたかのような美しさだ。最近はホタルが生息する地域が少なくなってきていると聞く。私の故郷・小林市は違う。きれいな水によって今も美しい光を燦めかせてくれる。
もう一つ、小林市ならではの「生物」を紹介しよう。それは「チョウザメ」だ。チョウザメという魚がいることを知っている人はどれくらいいるのだろうか。チョウザメとは、鮫ではなく、チョウザメ科に属する魚だ。むしろ卵のほうが有名かもしれない。卵は「世界三大珍味」のうちの一つ、キャビアだ。では、なぜ小林市にチョウザメがいるのか。実は小林市の水はチョウザメの養殖に適した水温であり、地下水を利用することで、悪性の菌を池に入れずに最高の条件で稚魚期のチョウザメを生育できるのだ。チョウザメは、その卵と共に小林市の新しいご当地グルメとして活躍の場を広げている。
小林市の水の素晴らしさを紹介するうちに、何だか故郷自慢のようになってしまった。しかし、小林市のきれいで豊富な水は、私たち人間の暮らしにおいしい水、豊かな食をもたらしてくれる。そればかりでなく生物の命をも支えている。私たちはこれからも故郷の水という自然の恵みを伝えつなげていかなければならない。
未来の子どもたちが、ホタルの美しさにため息をつけるように。
「ぷはーっ。生き返ったぁ」
と水を飲んだ子どもたちの声がいつまでも響くように。


