2018年度受賞作品,  ARTIST,  AWARD,  原田 維夫

【文部科学大臣賞】ふるさとは永遠に

大切な竹馬の友へ

えらくご無沙汰してるけんど、元気にしているけ?おまんの住んでる東京も、暑さが続いているとニュースで聞いておるよ。おれのいる山梨市も、毎日えらい暑さに見舞われとる。もうすぐ古希を迎える。身体にはこたえるのう。厳しい季節じゃんね。

そこでな。昨日孫を連れて、おれ達の「ふるさと」、広瀬に行ってきただよ。あそこは夏でも涼しかったからな。その涼しさは、暮らしていた村が沈んで、ダムになった今でも変わっとらんかった。あの頃と同じ爽やかな風が、肌に心地よかったぞ。

そうじゃ。時は経ったが、まだシラカバの木が葉を広げて生いしげっておった。その白く固い幹に触れると、おまんと遊んだ思い出が次々に蘇ってきたぞ。懐しさで胸がいっぱいになっとった。

よくシラカバの間を駆け抜けて、鬼ごっこをしたよな。汗まみれになって疲れると、一番大きな木の下で、野いちごをほおばりながら川の水を飲んだじゃんね。すき通って美味しい水じゃった。時にはその川で水浴びをしたり、石投げをして競い合ったりもしたよな。覚えているかのう?

じゃが、そんな心踊る遊びも、毎日できるわけではなかったよな。おれ達の村や下流では洪水が多かったからのう。あの輝くような川が姿を変え、うねりを上げるのを二人で遠くからおびえて見ていたじゃんね。そんな日が幾日も続いたときじゃったかのう。大人達のあいだで、ダム建設の話が持ち上がっておったのは。おれもおまんも、遊び場所がなくなってしもうのが嫌で反対していたのう。だから、ダムの建設が決定したときは、悲しくて仕方なかったな。しかも、立ち退きでおまんと離れ離れになっちもうと知った時は、寂しさでやるせなくなったのう。村が少しずつ掘られていくのを遠くから眺め、ふたりで悔しさをつのらせたのを覚えとるけ?

けんどな。今はこの地にダムが造られたことを本当に良かったと思っとるよ。ダムができてから、皆が水害で悩まされることはなくなって安心して暮らせるようになったからな。おれ達のいた村がたくさんの人を支えとる。誇らしいことじゃんね。

おれ達のふるさとは消えとらん。今も確かに生きておる。だからまたおまんと、一緒に広瀬の景色を眺めたいのう。昔みたいに駆け回ることはもうできんが、今も心は少年の頃のように元気じゃぞ。そうじゃ。今年の秋、広瀬に来ないかい?秋の広瀬は、紅葉にみとれちもうぞ。思い出話をしながら、一緒に歩かんか。「ふるさと」の道を。

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