【特別賞】燃える海
2022年7月8日
その景色は僕の視界を真っ赤に染めた。
別に特別な場所に行ったわけではない。いつもと変わらない日常、僕の住んでいる町から隣町への沿
岸沿いをすすむ車の中。上り坂、下り坂をくり返す道。何一つかわらない、一つを除いて。
その日はやけに波が立っていなかった。荒波といわれるような姿は少しも見せず、ただただ静かにそ
こに佇んでいた。
隣町に到着したころは日盛りといった空気だったが、用事を全て済ませた頃には日が暮れかけてい
た。真っ赤な夕日に照らされながら自分の住む町へと戻る途中だった。町をでてすぐの下り坂、そこで
違和感を覚えた。視界が不思議なほど、赤い。何度か目をこすったが変化はない。どうやら目が原因で
はない。下り坂が終わると、僕の視界は真っ赤に染まった。ちょうど夕凪の時間帯でさっきよりも波は
なく、水面にほとんど動きはなかった。沈みかけた夕日の光を鏡のように反射させ、静かに佇む海はそ
の身を激しく真っ赤に燃やしていた。
僕はその日もいつもの日常を過ごしていた。そこに広がる景色もいつもの景色のはずだった。でも、
特定の条件で海はその姿を非日常の絶景へと変えるのだ。飽きが来てしまうような日常の中にも心を奪
うような非日常が潜んでいることを改めて実感した。


