2015年度受賞作品,  ARTIST,  AWARD,  miiya

【ざぶん文化賞】海の祈り

「ウミネコさん、空から見える今日の町や人々の暮らしはどんな様子だったかい?」

ウミネコに話しかけたのは海でした。

海が、ウミネコに町や人々の様子をたずねるようになったのは、ある出来事が起こって、

しばらくたった頃からでした。

海にたずねられるたびにウミネコは、その日に見た町の様子を話して聞かせました。そし

て、ウミネコが話し終えると海は、

「いつもありがとう、ウミネコさん」

と、言って悲しそうに町の方を見るのでした。

ウミネコは、海がその出来事で心を痛めていることも、毎日のように町の様子をたずねて

くる理由もわかっていました。

その出来事が起こったのは、三月というのに、とても寒い日の午後でした。

大きく地面がゆれた後、海は自分自身ではどうしようも出来ないほどの海底からの大きな

力に押し上げられ、海辺の町をのみ込み、人々の幸せや大切なものをうばってしまいました。

海は、あの日から一変してしまった人々の暮らしを思うたびに自分のことを責めずにはい

られませんでした。

ある日、いつものようにウミネコの話を聞いていた海にワカメが話しかけてきました。

「海さん。海さんが悲しむ気持ちは、私たちにもよくわかるよ。けれど、人間たちは、それ

以上につらくて悲しい思いをしている。それでも、懸命に前へ進もうとしているのだから、

海さんも人間たちのために出来ることをしていかないといけないよ」 今度は、ホタテが言いました。

「そうね。今、私たちは海さんの中で育っている。今、ここにいることは多くの人間の努力

によるところが大きいけれど、私たちが大きく育つためには海さんの力も必要なのよ」

ウニやアワビ、他の生き物たちも声をそろえて言いました。

「悲しんでばかりの海さんの中で育っても、私たち、おいしく育つことが出来ないよ」

ウミネコも初めて自分の気持ちを海に伝えました。

「全てが元のように戻ることはないけれど、それでも人間は前を向いて生きている。海さん

が人々の暮らしを変えてしまったことは取り返しのつかないことだけど、海さんにしか出来

ないことで、人々の暮らしを支えていくことは、あの出来事が起きる前までと同じように出

来ると思うんだ」

みんなの話を聞き、海は自分が人々のために出来るただ一つのことに気が付きました。

それは、まだまだ先の見えない不自由な生活をしながら、それでも再び自分のそばで暮ら

すことを選んでくれた人々のために『海のめぐみ』を育み続けていくことなのだと……。

海は今日も祈ります。『人々のもとへ一つでも多くの幸せが訪れますように……』と。

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