【特別賞】池
カキーン……ポチャン!
久しぶりのホームラン!…と思って僕が放った打球。しかし、ボールはきれいな放物線を描き、近くにある池の中に入ってしまった。池に入れた人がボールを取りに行く。ここはそういうルールだ。チームメイトに笑われながら、僕は池に向かっていった。
あの池、あんまり綺麗じゃないから行きたくないんだよなあ…。そんなことを考える僕の足は重かった。そして池の前まで来たとき、
「え…?」
僕は驚いた。この前来た時より、断然汚くなっているじゃないか。池の水は茶色く濁り、そこら中にごみが散らかっていた。僕が野球をしているところからは、ちっともわからなかった。すると、
「いたた…。あ、お前か?俺にボールをぶつけたのは」
ん…?不意にかけられた、その声の主がわからず、あたりをきょろきょろ見回す。
「ここだ、池の中」
そう言われて、池の中を見ると、一匹の魚が僕を睨んでいるのが目に入った。何だ魚か。
「まあ、そんな顔するなよ。あ、これお前のボールだ。痛かったぜ」
そう言って魚が差し出した、泥とごみまみれのボールを見つめる。僕はそれを受け取ってから、しばらく考えて、
「ありがと。…あのさ、その池って住みやすい?」
と思い切って訊いてみた。魚は少し驚いたような顔をした後、
「住みやすいように思えるか?」
と聞き返してきた。視界に映るごみの数々が目に映る。カップ麺、ファーストフードの紙屑、コンビニの袋…。僕は目を閉じて首を振った。魚は一息ついて、
「…だよな。正直ここは俺にとっても住みにくい。汚くなりすぎて、昔の仲間はみんなどこかに行っちまった」
そう言う魚の目は悲しそうだった。こんな汚い場所で一人生き続けることが、どれほど苦しいか簡単に想像できた。だから、僕は…。
僕は近くに落ちていた、コンビニ袋を手に取って、そこら辺のごみを集め始めた。池に入ったごみ、何か月も放置されているようなごみ、もとが何かわからないごみ…。
コンビニ袋の膨らんだ塊が七つほど積みあがったところで、目に見えるごみは無くなった。終始無言だった魚に目をやると、呆気にとられて固まっていた。僕が声をかけようとすると、
「…ありがとう」
と言った。小さい声だったけれど、はっきり聞こえた。そんな魚の目は、少し嬉しそうだった。僕は笑って、
「どういたしまして」
と返す。ホームランを打つより、すっきりした気持ちが、そこにはあった


