2018年度受賞作品,  ARTIST,  AWARD,  近藤 賢

【特別賞】池

カキーン……ポチャン!

久しぶりのホームラン!…と思って僕が放った打球。しかし、ボールはきれいな放物線を描き、近くにある池の中に入ってしまった。池に入れた人がボールを取りに行く。ここはそういうルールだ。チームメイトに笑われながら、僕は池に向かっていった。

あの池、あんまり綺麗じゃないから行きたくないんだよなあ…。そんなことを考える僕の足は重かった。そして池の前まで来たとき、

「え…?」

僕は驚いた。この前来た時より、断然汚くなっているじゃないか。池の水は茶色く濁り、そこら中にごみが散らかっていた。僕が野球をしているところからは、ちっともわからなかった。すると、

「いたた…。あ、お前か?俺にボールをぶつけたのは」

ん…?不意にかけられた、その声の主がわからず、あたりをきょろきょろ見回す。

「ここだ、池の中」

そう言われて、池の中を見ると、一匹の魚が僕を睨んでいるのが目に入った。何だ魚か。

「まあ、そんな顔するなよ。あ、これお前のボールだ。痛かったぜ」

そう言って魚が差し出した、泥とごみまみれのボールを見つめる。僕はそれを受け取ってから、しばらく考えて、

「ありがと。…あのさ、その池って住みやすい?」

と思い切って訊いてみた。魚は少し驚いたような顔をした後、

「住みやすいように思えるか?」

と聞き返してきた。視界に映るごみの数々が目に映る。カップ麺、ファーストフードの紙屑、コンビニの袋…。僕は目を閉じて首を振った。魚は一息ついて、

「…だよな。正直ここは俺にとっても住みにくい。汚くなりすぎて、昔の仲間はみんなどこかに行っちまった」

そう言う魚の目は悲しそうだった。こんな汚い場所で一人生き続けることが、どれほど苦しいか簡単に想像できた。だから、僕は…。

僕は近くに落ちていた、コンビニ袋を手に取って、そこら辺のごみを集め始めた。池に入ったごみ、何か月も放置されているようなごみ、もとが何かわからないごみ…。

コンビニ袋の膨らんだ塊が七つほど積みあがったところで、目に見えるごみは無くなった。終始無言だった魚に目をやると、呆気にとられて固まっていた。僕が声をかけようとすると、

「…ありがとう」

と言った。小さい声だったけれど、はっきり聞こえた。そんな魚の目は、少し嬉しそうだった。僕は笑って、

「どういたしまして」

と返す。ホームランを打つより、すっきりした気持ちが、そこにはあった

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