2019年度受賞作品,  ARTIST,  AWARD,  KEN★16

【特別賞】僕は「水」だ。

僕は「水」だ。

今はどこか知らない地の空のくもの中にいる。くもの中で、ゆったりと空を旅してきた。でも優雅な空の旅ももう少しで終わる。周りに黒いくも、そう。雨雲が増えてきた。僕らは雨となって地上へ落されるのだ。

ついにその時はきた。曇った空に雷鳴が響きわたり、僕たち「水」は一斉に地上へ放たれた。なぜか懐かしさを感じながら、池のようなところへ落ちた。

どれくらいの時が過ぎただろうか。ものすごい爆音で僕は目覚めた。少し向こうの方に壁のようなものがあり、その一部が扉のように開いていた。そこから、僕ら「水」が大量に流れ出ている。状況がつかめないまま僕もそこから流れ出た。流れ出たとき、「ダム」という字が壁に記されていた。

ごつごつした岩のある川を流れ、僕らは工場地帯のような所についた。目の前には、網目の金属の板やパイプが入り乱れていた。そこへ僕らは、後ろからの圧でむりやり押しやられた。網目の板やパイプをいくつも通りすぎ、次は、今までより一回り大きいパイプに入った。

後ろからの流れがいきなり止まった。広いタンクのようなところにきていた。不規則なタイミングで僕と同じ「水」たちが細い管に入っていった。

タンクに入って三日。ついに僕が細い管に入った。管から出た先には透明の器だった。

しばらくして、下水管といわれるところに来ていた。何があったのかはあまり覚えていない。するとあのときの板やパイプに似たものが見えた。あのときのようにそこへ押しやられ、あの「ダム」のような広い所にきた。

そこに来てから、日に日に自分が小さくなっているように感じた。ひどい暑さの中、自分の体がどんどん消えていくように感じた。

僕は「水」だ。

今はどこか知らない地の空のくもの中にいる。どうやってここに来たか覚えていない。しかし、ぼんやりとした記憶も残っている。気づけば周りに黒い雲が増えてきた。そろそろか。

黒い空に雷鳴が響いた。

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