2019年度受賞作品,  ARTIST,  AWARD,  小林 暁子

【特別賞】ぼくと「鹿ノ井出水」

ぼくは、いま、住んでいる自分の家をとても気に入っている。なぜかと言うと、僕の家から歩いて一分ぐらいのところに「鹿ノ井出水」という湧き水があるからだ。

「鹿ノ井出水」には、言い伝えがある。

保安三年(一一二二年)に大日照りに見舞われ、飲み水にも不自由するようになった讃岐の国で、ある日、居石(おりいし)神社に白髪、白髭の老人が現れた。その老人は、突然一匹の鹿に姿を変えて走り出し、桃の木のあたりの土を前足で掘って、走り去った。すると、鹿が土を掘ったところから、渾渾と清水が湧き出して、村人たちは大喜びで喉の渇きを潤したという。

このような不思議な言い伝えのある湧き水が、平成十年に石積み護岸に改修され、遊歩道や休憩所なども整備されて、現在の「鹿ノ井出水」となった。

ぼくは、今の家に生後二ケ月のときに引っ越してきたので、「鹿ノ井出水」と一緒に成長してきたと言っても言い過ぎではない。

「鹿ノ井出水」には、メダカやザリガニ、コイやフナ、エビなどもいて、生き物の命があふれている。ぼくは、生き物が大好きなので、幼い時から「鹿ノ井出水」にほとんど毎日通って、メダカやザリガニ、エビやフナを網でとって、それを大切に家で育ててきた。

上手に育てるコツは、自然に近い環境をつくって育ててあげることだ。出水の湧き水をくみに行って、こまめに水替えをしたり、エサを朝と夕方にあげたりしている。毎日、世話をしながら観察をしていると、「大きくなったな」「ザリガニが脱皮したな」など、新しい発見や驚きがあって、とても楽しい。「鹿ノ井出水」の生き物の命が、ぼくの家で育ってくれていると、「鹿ノ井出水」がとても近くに感じられて、ぼくも自然とつながっているようなうれしい気持ちになる。

そんな大好きな「鹿ノ井出水」の生き物の命がもっと増えてほしいと、ぼくは、飼っているザリガニの赤ちゃんを出水に戻してあげる活動もしている。ふ化したばかりの赤ちゃんは、まだ弱いので、一回脱皮するのを待って、体長が一センチメートルぐらいに育ってから返すようにしている。

ぼくの家で育った赤ちゃんザリガニが、出水で元気に成長していく姿を想像すると、この活動は本当にワクワクする。次はメダカを増やす活動もしたいと思っている。ぼくと「鹿ノ井出水」が協力しあって、生き物の命を育てているような気持ちになってうれしい。

ぼくが幼いころ、「鹿ノ井出水」にはカモも数羽いた。そのかわいいカモが大好きで、僕は毎日見に行っていた。でも、ある日、カモが二羽だけになっていた。この近所ではないだれかが、カモに石を投げて死んでしまったと聞いた。その時の悲しい気持ちを、ぼくは今でも忘れない。

出水には、空き缶やタバコの吸いがらが捨てられていることも多く、ぼくは本当に悲しい。見つけたら、拾って持ち帰るようにしているが、みんなが出水の生き物の命を大切にする心を持ってほしい。

ぼくは、出水で命の大切さを学んだ。

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