【ざぶん文化賞】しずく
「この本を見てごらん」
そう言って母は私に一冊の本を渡しました。手にとってゆっくり開いてみました。目に飛び込んできたのは、森の中できらきらと光を放ち輝いているしずくの写真集でした。ひとつぶひとつぶはとても小さくても、それぞれに生命が息づいているように感じました。
葉の上で太陽に照らされて光るしずく。
葉の先の、あと少しでこぼれ落ちそうなしずく。
こけが体全体で受けとめるしずく。
たくさんの写真のどれも美しく、私はまるで豊かな水に囲まれて生きている、そんな気持ちになりながらページをめくっていました。
「あなたが生まれて、あなたの名前を決めるとき、きれいな響きの『しずく』にしたいと考えていたの。けれど、少しまだ迷いもあった。でも、最後にこの本を見て、『しずく』にしようって決めたんだよ」
そう母が教えてくれました。
私はそれまで自分の名前にこめられた思いを知りませんでした。父や母の思いを。
私が生まれた時、一つの生命がこの世に誕生することの素晴らしさと、自分達を支えてくれた多くの人への感謝が心にあふれてきたそうです。そして、自分達の子どもにもほんの少しでもいいから、誰かの心を満たすことができる人になって欲しい。そんな思いを私の名前に込めたのだと教えてくれました。
水。それはすべてのものの生命の源。地球に舞い降りる雨は、大地を潤し、生命を育み、豊かな恵みをもたらしてくれる。生きとし生けるものすべてにとって、水はその生命をつなぐ源。水は大地の上をほとばしり、いくつにも分かれ、最後は小さな小さなしずくとなって、すべてのものに生命を与える。きらきらと輝きながら。
しずく。私の名前は生きているすべてのものに生命を与えるしずく。私の名前はなんて素敵でほこらしい名前なのでしょう。私は、父や母の思いを知り、心が透明に、豊かに潤っていく感じがしました。
そして、もう一つ素敵なことを発見しました。私の名字にも「川」が入っていて水に関係していること。
川崎雫。
流れる川が大地を潤し、豊かな水がしずくとなって生命をみなぎらせている。こんな素敵な名前を贈ってくれた両親に心から感謝しています。


