【ざぶん文化賞】海
次から次へと水が、肺に入ってくる。苦しい。水面へ顔を出そうと手足を力の限り振る。水をつかむ。でも、どんどん沈んで、水面がもっと遠くなる。酸素を求めて息を吸うと、空気とともに水が入ってきた。あぁ、ヤバイ。苦しい。水を吸い込んではいけないと頭では理解しているのに。また、吸ってしまった。さっきよりももっと、苦しくなっていく。夢を見ているかのような感覚に陥ってきた。このまま、死ぬのか。キラリと反射した太陽の光が見えた気がした。もう、それが近いのか遠いのかさえ分からない。でも、それがきれいだったから、手を伸ばして、光をつかもうとした。当然のことだが、そんなことできやしなかった。もうろうとした意識の中で、あぁ馬鹿だなと笑った。笑って、もういいや、と目を閉じた。誰かの手が、腕が、僕に触れたような気がした。
そこからはもう何も覚えていない。
「海、行こうよ。せっかくの夏休みだし」
先輩が言う。すると、一瞬皆が僕の様子を見る。笑顔で、
「いいっすね、海。今年暑いし」
と言うと、皆安心したような表情を浮かべ、賛同の意見を次々と述べる。本当は、海なんて行きたくない。
僕は一年前、海で溺れた。サーフィンが大好きで、家が海に近かったこともあり、夏休みになると毎日海へ出掛けていた。しかし、一年前に海で溺れて、それ以降パッタリと海へは出掛けないようになってしまった。その日も、いつものように波にのっていた。けれど、つい油断して大きな波にさらわれてしまった。幸い、それを見ていた人が何人かいて僕は救助された。でも、あの恐怖からすっかり海が嫌いになってしまったのだ。もう、一度も見ていない。
夏休みの半ば。部員全員の都合が合う日が一日だけあったので、その日に行った。僕は浜辺で皆の荷物の見張り番をしていた。夕方になり、各自解散、と先輩が言ったものの、だらだらと皆でかたまりながら浜辺を歩いていた。ふっ、と前を歩いていた同級生が海の方を向き、わぁ、と感嘆の声を漏らした。何だろう、と不思議に思い僕も海の方を見る。陽が、沈みかけていた、オレンジ色の光を放ちながら、その光で空が染めあげられ、海は光を反射して水面がキラキラと光っていた。綺麗だった。あぁ、海ってこういうものだった。冷たくて、心地良くて、綺麗で。怖さばかりですっかり忘れていた。気付けば、周りにいた部員たちも海の方を見て、綺麗だね、と話し合っていた。前にいた同級生が急にグルッと振り返り、僕の目を見て、
「また、来年も皆で来ようね」
と、微笑みながら言った。僕も微笑んで、
「うん、そうだね」
と言った。


