【環境大臣賞】明石のため池で
足がチクチクかゆい。僕と父さんはため池の土手の上を草をかき分けながら歩いて行った。緑の田んぼが広がり、空はまるで海の様に真っ青で、所々に白い雲が浮かんでいる。その真ん中に一直線に伸びる新幹線の高架が見える。もう少しで、僕の秘密のカワセミポイントに着く。ここに行けば、いつも必ず、カワセミに会うことができる。
去年の十二月、この場所で、僕たちは特別な瞬間に出会った。
その日、土手を歩いていた僕たちの頭の上を、黒いかげがスーッと一直線に飛んでいった。ため池にいた何百羽ものカモたちが、一度に飛び立つ。黒いかげはそのうちの一羽にぶつかって、一緒に遠くの畑に落ちていった。
「畑に落ちた!」
土手を駆け下り、新幹線の高架をくぐり、ダッシュした。途中で大きなカメラを手にしたおじさんがゆっくりこちらに歩いて来る。バードウォッチャーだ。今の出来事に気づいていないようだ。
「向こうの畑に鳥が落ちましたよ」
と伝えると、おじさんも一緒に駆け出した。
畑の真ん中で何かが動いている。黒いくちばし、目からほおにかけてもみあげの様な模様、胸から下は白黒のしま模様。ハヤブサだ。まだ食べずに、辺りを見渡し警戒している。僕たちは静かに離れて見ていたが、そのうちハヤブサは獲物を残して飛び去った。どうやら僕たちの姿に気づいたらしい。
ハヤブサの姿が消えたので獲物の所に行ってみた。ハシビロガモのオスだ。いつの間にか、ハヤブサは新幹線の電柱の高いところに移動してこちらを見下ろしている。
僕たちは高架の下にかくれた。
しばらくすると、ハヤブサが再び下りて来た。今度は警戒せずに獲物の頭を鋭い足の爪で押さえつけ、ガツガツと羽をむしり本格的に食べ始めた。時々、白い羽に混じって、赤い羽が舞っている。僕たちはみんな黙ってシャッターを切り続けた。
僕の住んでいる明石の町は昔から雨が少ない。そのため農業用として多くのため池がある。毎年冬にはたくさんの鳥が渡って来る。白黒のパンダのようなミコアイサ。黒い体に金色の目のキンクロハジロ。緑の頭に黄色いくちばしのマガモ。ピンと伸びた尾羽が特徴のオナガガモ。毎年会えるのを楽しみにしている。それはハヤブサも同じだろう。
カワセミポイントに着いた。古い木のさん橋にはカワウのフンの白いあとはいっぱいあったが、カワセミの姿はなかった。夏の終わりのため池にも鳥の姿はなかった。がっかりしながら、来た道を戻っていると、遠くの工場の屋根の上を、独特の飛び方をする鳥の姿が小さく見えた。ハヤブサだ。この暑い夏も元気でいたんだと思うとうれしかった。
冬が来たら、また、このため池の土手を上がって来よう。そして、もう一度、ハヤブサを探してみよう。
明石のため池とその自然がいつまでも豊かであることを僕は願う。


