【文部科学大臣賞】ぼくはプール
さくらの花びらがぼくの水の上にまいこんできた。
ぼくの所にはたくさんの生きものたちが遊びに来た。久しぶりに土の中から顔を出したカエルが、一番乗りだとうれしそうにゆうゆうと泳いでいる。よく見ると、オタマジャクシもカエルのそばで泳いでいる。ぼくの横にしがみついて、トンボのヤゴは、オタマジャクシをごちそうだとほおばっている。アメンボは楽しそうに水の上でスケートをし、スズメは気持ちよさそうに水浴びをしている。今年もここは、にぎわいそうな予感がした。
雨がぼくの体をたたきつける時期がきた。
子どもたちは、ぼくのそうじをしてくれた。もうすぐプールの授業が始まることを楽しみにしながら、底にたまった泥や水を「キャーキャー」言いながら、はき出してくれた。とても気持ちよくてうれしかった。でも、さびしくもあった。そこにいた生きものたちとお別れしなければならないからだ。「生きものたちが川へ追い出されても元気でいてほしい」ぼくはずっとそうねがいながら、そうじが終わるのをじっと待っていた。
太陽の光がするどくまぶしくなったころ、一年で一番ぼくが人気者になる時期が来た。
特に、夏休みは、毎日来る子もいて大にぎわいだ。人間につぶされないように、ここに遊びに来るカエルをそっと木かげににがしてあげる子どもを見ると、ぼくはほっとする。水中おにごっこを楽しむ子、今年こそは泳げるように、お兄さんと練習している子、クロールで百メートルを泳げるように、毎日一生けん命に練習する子、ぼくはいつも、どの子も応えんし、見守っている。
ツクツクボウシが夏の終わりをさびしそうにしていたころ、きらきらと水色にかがやいていたぼくの体に、アキアカネの赤い色がきれいに反しゃした。
気がつくと、たくさんのトンボがぼくの上をまっていた。そして、ギンヤンマはぼくの水の上に卵を産み始めた。真っ黒に日やけした子どもたちが、五人、十人とぼくの周りに集まり、大きなギンヤンマの産卵を海水パンツのまま立ちつくして見ていた。きっと初めて見ておどろいたのだろう。ぼくは、「このたまごが元気なヤゴになるといいな」と思いながら、波を立てないように、じっと産卵を待っていた。
ぼくの所には、雪が「仲間に入れて」と言いながら入って来た。
ぼくは、この雪を家族がふえたように思えてうれしい。ふえた家族と一緒に、生きものたちが、ここで少しずつ成長していくのをいつもうれしく思いながら、見守っている。「ぼくの中で春を待っている生きものたち、外は寒いけど、一緒にがんばろう。春になったらまたたくさんの生きものたちと一緒に遊べるのが楽しみで待ち遠しいね」とみんなで心をはずませている。だから外は寒いけど、ここはいつもあったかい。
ぼくの周りでは、たくさんの生きものたちのすみかが失われている。そんな中、せめてぼくは生きものたちのゆりかごでありたい。


